方言支援ツールの作成


 医療・看護・福祉の現場で、地元の方言がわからない若者や、他地域から来た医療・福祉の仕事をしようとする方、外国人看護師・介護福祉士のみなさんを、方言で支援するツールを作成しています。これまで、各地の方言で表した「身体語彙図」・「医療・福祉関係方言語彙」・「問診場面テキスト」を作成してきました。
 東日本大震災を契機に、方言研究者としてできる支援をしようと考え、東北の方言研究者に協力を呼びかけて、災害派遣の医療者を支援するツールの作成を急ぎ、まず、青森県・八戸方言(今村かほる)、岩手県・盛岡方言(竹田晃子)、宮城県・仙台方言(武田拓)、福島県・福島方言(半沢康)による2011年9月から災害現場や避難所などで使える方言支援ツールの配布を開始しました。
2014年3月には、弘前学院大学文学部の2年生の参加する今村かほるゼミの取り組みにより、これまでの方言研究の成果を活かした47都道府県の方言による「方言身体語彙図」が完成しました。

通常の診察時でも診察用のデスクのマットの下や、診察室の壁に貼り、患者さんとコミュニケーションをとりながらでもチラッと見られるような工夫をしました。災害時には、これを医療者・支援者が携帯して利用することの他に、避難所などの診察室の壁にポスターとして貼り、短期間で入れ替わりをする様々な医療者が、自分のわからなかった方言形を書き加えて増補していけるようにすることも想定しています。また、医療・看護・福祉の仕事をする方々が、その地域の方言を最低限、知りたいという場合にも役立ちます。また外国人看護師・介護士のみなさんが、地域の方たちを理解することにも役立ちます。
これは、「方言によって支援者を支援する」という発想に基づく「方言支援ツール」です。


■方言支援ツールの使い方

 東日本大震災・中越地震・広島土砂災害の被災各地の被災者と支援者(災害派遣医療者・福祉関係者・自衛隊・消防等)を対象とした調査を基に、災害支援者を方言で支援する「方言支援ツール」を作成しました。以下に各ツールの特徴と有効な使用法について示します。

1 方言身体語彙図
 ①身体部位に関する基本的な方言形を集めたものです。
 ②共通語と同じ語形のものは省き、特徴的な単語を記載しています。
 ③避難所等、支援者が交代するような場所では、大きなポスターのようにして掲示し、ここに記載されていない方言形を書き込んで。次の医療者や支援者への情報伝達のためのツールとして活用できます。
④プライバシーが確保できない環境では、これを手元に置いて、指差しで使用することができます。
⑤A4程度の大きさの紙に印刷したり、タブレット等の電子媒体で携帯して使えます。

2 医療福祉関係方言語彙集
 ①各地から支援に入る医療関係者や、福祉の関係者、ボランティアを主な使用者と想定したツールです。
 ②発災後、1週間から1か月くらいを目途に、直接、被災者とコミュニケーションする際の手助けとなる方言形を記載しています。主に、被災者の心情を表現する感覚や感情に関する語彙・動作に関する語彙・程度や頻度を表す語彙・病気や症状を表す語彙・人間関係の語彙・挨拶や声かけに関する語彙・特徴的な文法などです。  ③支援者がA4程度の大きさの紙に印刷して持参したり、タブレット等の電子媒体で携帯して使えます。(方言身体語彙図の裏面に印刷して携帯することができます)
 ④地図が掲載されているものは、その地域の地名や気象情報の地域区分のための情報です。自分が支援に入っている地域の地名や地域区分を確認し、天気予報等の情報を得る場合の参考にお使いください。また、他地域からの自治体職員の派遣支援や訪問看護・介護などの場合、どこで・どのように被災したのかといった基本情報を聞き取る際に必要な情報です。

*こうした方言支援ツールは、これまでの方言研究によるデータの蓄積と医療・福祉等の関係者の連携によって作成されました。今後の被害状況や被災地からの要望等を反映して、順次改定作業を行って更新していきます。

熊本支援ツール使用法
方言支援趣意書
熊本県の方言区画


<主な参考文献>
平山輝男他編著(1992-1994)『現代日本語方言大辞典』(全9巻) 明治書院
平山輝男編著『北奥方言基礎語彙の総合的研究』(1982)桜楓社
平山輝男編『全国方言基礎語彙の研究序説』(1979)明治書院

身体語彙図


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