研究の概要


この研究は、2005年に弘前学院大学の今村のところにいただいたある福祉施設の職員の方からの「ムッツイっていう津軽弁は、標準語ではなんて言うのか?」という一本のお電話から始まっています。
ムッツイは、〝飲み物なしで卵の黄身やカステラを食べたとき口の中の感覚″を表すことばです。共通語では一語で言い表すことばがありません。
この質問をいただいたときに、あっと思いました。福祉の現場では、施設利用者さんの食物の摂取の仕方を、その方の状態に合わせて、常食・軟食・刻み食・ミキサー食・・のように配慮しています。そうした命に係わる仕事をしている現場で、「ムッツイ」ということばは、とても大切なことばです。呑み込めるか呑み込めないか、それは調理法の問題なのか、それとも昨日はできても今日はできないという機能の低下の問題なのか、観察して適切な支援をする必要があることがわかりました。
そのように、人の命や健康で安心・安全な生活を守っていくために必要な方言があるのです。

そして、東日本大震災が起こりました。このとき、私たちは研究を見直しました。これまでの方言研究の膨大な知識の蓄積を、一刻も早く活用できるものにすることが必要だと感じました。そこで未来永劫完全なものを目指すのではなく、完璧でなくとも、今できることを尽くし、必要な人に必要な情報を届ける工夫をするべきだと。
医療・看護・福祉の関係者のみなさん、方言研究者はもちろん、地域のみなさんと協力して、安心で安全な地域づくりを目指しています。
東日本大震災の被災地の皆さんにも、辛い体験談をお話ししていただきました。その辛い経験を、次に起こる災害の時に役立ててほしい、少しでも減災のためにと、協力してくださったみなさまのお気持ちを、大切にしたいと願っています。もちろ、被災者のみなさまの不便で、お辛い毎日を忘れることはありません。心を寄せ続けていきたいと思っています。

この研究は、以下の補助金を得て進めています

2012年度~2014年度(予定)科学研究費補助金基盤研究(C)
「災害対応のための方言活用システムと方言ツールの開発」(研究課題番号:24320084)
2009年度~2011年度 科学研究費補助金基盤研究(C)
「地域に即した看護コミュニケーションのための基礎資料の作成」(研究課題番号:21520489)
2006年度~2008年度 科学研究費補助金萌芽研究
「保健・医療・福祉に利用できる方言データベースとコミュニケーションマニュアルの開発」(研究課題番号:18652044)



■ 第1期 2006年6月~2009年3月 

 各地の現状を把握するために、広島(安芸)・富山・飛騨・青森(津軽)の4地点で、医療関係者や地域住民からの聞き取り調査を実施しました。その他に、医療・福祉関係方言語彙のデータベースの試作を行いました。
 そして、弘前市において、2008年3月に各地の実態報告と方言データベースの中間報告それに関する意見交換会を行いました。方言の問題について、医師の立場から西川胃腸科外科医院院長:西川泰右氏、看護・介護の立場から元西北五病院看護師長・弘前福祉短期大学:横浜礼子氏、福祉の立場から藤聖母園弘前大清水ホーム施設長:込山実氏、弘前学院大学の取り組みおよび津軽の文化的特性について、文学部教授:井上諭一氏に意見・助言をいただきました。
2009年3月には、方言データベースなどの研究成果報告会を、弘前学院大学で実施しました。
      
1 地域によって、方言の問題の性質が異なること
津軽:方言主流社会であると同時に若い世代では古い方言が相当失われており、コミュニケーション全体について方言が理解されにくい状況にあること
富山、飛騨、広島:地元出身者にとっては、比較的方言は理解されやすいが、時折、注意が必要な語がみられること。県内の地域差であったり、世代による意味の差がみられることがあること

2 方言データベースには検索の工夫が必要
わからない方言は、うまく聞き取ることができないため、一部だけの入力や、複数の入力パターンから適切なものを検索するシステムの開発が必要になり、データ収集とシステム開発を行った
   
研究報告会・意見交換会4人・弘前調査


■ 第2期 2009年4月~2012年3月
 方言によるコミュニケーションが特に地域課題として考えられる津軽において、その課題解決のための取り組みを開始しました。

1 ビデオ教材の作成
 データベースの単語データだけでは、発音や動作、視線、表情などの相互作用が把握が対応できないため、典型的な問診場面についてシナリオ化して、やりとり全体をビデオ撮影しました。看護学部の学生・社会福祉学部の学生・文学部の学生に講義で使用する教材化を開始しました。

2 鹿児島への展開
 その昔、津軽の人とことばが通じなかったと国語教科書の教材にも取り上げられるほど特徴的な方言である鹿児島でも調査を進めてきました。その過程で「単語レベルで対応できる地域」と「発音、文法、単語のすべてを知らないと対応できない地域」があることが見えてきました。
前者については、「方言の手引き」を整備しました。

3 日本語学会で発表
 2010年秋季大会(於:愛知大学)において、「医療・看護・福祉現場における方言教育」について、発表しました。発表者:今村かほる・岩城裕之・工藤千賀子・友定賢治・日高貢一郎

4 東日本大震災への対応
 2011年3月に発生した東日本大震災を契機に、災害時の医療・看護・福祉の現場における方言の問題にも対応することが必要になりました。取り急ぎ、医療関係者・ボランティアの方たちのために、2011年9月に東北の研究者と協力して、青森県・岩手県・宮城県・福島県各地の医療・福祉関係方言語彙集を作成して、配布を開始しました。その後、改良を施し、2012年3月に方言身体語彙図と医療・福祉関係方言語彙集の改訂版を配布し始めました。

5 日本ヘルスコミュニケーション学会で発表
2011年9月に日本ヘルスコミュニケーション学会(於:九州大学)で、「被災地域の方言と医療コミュニケーション」について発表しました。発表者:今村かほる
医療関係者に開発した方言ツールを配布し、助言を求めました。また、災害派遣の医療関係者から、被災地での活動についてお聞きしました。

ビデオ弘前・データベース


■ 第3期 2012年4月~2015年3月(予定)
1 ビデオ教材の作成研究
 各地で方言教材を作成していくために、弘前学院大学においてビデオによる方言教材作成のための研究会を行い、検討会を実施しました。

2 災害派遣医療関係者へのアンケート調査・インタビュー
 2013年3月にweb調査会社を通して、東日本大震災の災害派遣に応じた医師・医療関係者を対象としたアンケート調査を実施しました。また、これと並行して、大学病院・国立病院機構・赤十字病院・市町村立病院の災害派遣医療者を対象として、同様の内容のアンケート調査を実施しました。

3 被災地の臨地調査
 2011年から開始した被災地の臨地調査を、2012から範囲を拡大・本格化させました。2013年には、岩手県と宮城県を中心に、医療官関係者・福祉関係者へのインタビューを精力的に実施しました。

4 社会言語科学会で発表
 2013年9月に社会言語科学会(於:信州大学)で「看護のコミュニケーションにおける方言-青森県津軽地方における「身体部位」および「症状」語の場合」について発表しました。発表者:工藤千賀子・今村かほる

5 日本方言研究会で発表
 2013年10月に「東日本大震災災害派遣医療関係者を中心とした方言コミュニケーションの問題と効用」と「災害時・減災のための方言支援ツールの開発」を発表しました。発表者:今村かほる・岩城裕之・武田拓・友定賢治・日高貢一郎

6 日本集団災害医学会で発表
 2014年2月に「被災地方言と医療コミュニケーションのための方言支援ツールの開発」について発表しました。発表者:今村かほる

7 EPA外国人看護師・介護福祉士およびその候補者と研修責任者アンケート調査
 2014年3月から、EPA(経済連携協定)により来日したインドネシアとフィリピンからの看護師・介護福祉士と、研修中の候補者、また受け入れ病院と施設の研修責任者を対象としたアンケート調査を実施中です。
 研修先で各地の方言とであった外国人看護師・介護福祉士の方たちのコミュニケーションに関する問題を調査しています。

EPA・ビデオ氷見・雄勝診療所


今後の計画
このHPで、方言教材の動画や医療・看護・福祉関係方言語彙のデータベース(音声付)を公開する予定です。
 また、全国の方言研修者と連携し、方言支援ツールを改定・充実させる他、まだできていない地域では、減災の備えとして、できるだけ早く、方言支援ツールを作成する努力をしていきます。
 外国人看護師・介護福祉士やその候補者のみなさんの支援についても、今後、進めていきます。


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